小売電気事業者にとって、電力調達コストの中でも特に負担感が大きいのが容量拠出金です。
このコストを減らすために注目されているのが「ネガワット取引」です。需要家の節電を発電と同じ価値とみなし、取引やコスト精算に活かせる仕組みです。
ネガワット取引とは、電力需要がひっ迫する時間帯に、需要家が「自発的に使わなかった電力(ネガワット)」を、発電と同等の価値として取引する制度です。
これは、インセンティブ型の「下げDR」に該当し、調整力公募や需給調整市場など、電力需給の安定化を目的とした市場枠組みの一部として位置づけられます。
デマンドレスポンスとは、電力が不足しそうなときに、電力会社がアグリゲーター(仲介役)を通じて需要家に節電を依頼する仕組みです。その節電効果を「ネガワット」として価値化し、市場取引や制度上のコスト削減に活用するのがネガワット取引です。
つまり、デマンドレスポンスを土台として発展した仕組みがネガワット取引といえます。

ピーク時の電力使用量を計画的に抑制することで、容量拠出金の負担を軽減できます。デマンドレスポンス(下げDR)による負荷調整は、同時同量の達成やインバランス低減にも寄与し、需給管理の精度向上にも効果的です。
この仕組みは、容量市場における“調整力”として制度上も認められており、容量拠出金の算定にも関わる要素。
容量市場への対応が求められる中で、ネガワット取引は、制度対応と収益確保を両立できる合理的な選択肢と言えるでしょう。
ネガワット取引の大きな魅力は、需要家が保持している設備を活用して参加できる点です。空調や照明、ポンプ、蓄電池など、すでに保有している設備の稼働を一時的に抑制するだけで、多くの場合、追加の設備投資や大規模なシステム導入なしに制度へ参加できます。
一方、小売電気事業者側は、デマンドレスポンス支援事業者や支援システムを活用すれば、制御対応や実績報告などの業務も委託できるため、運用負荷が軽減されます。
契約容量や削減量に応じてkW・kWhベースの報酬を受け取れる可能性があることから、初期リスクを抑えながら新たな収益源を得る手段として、実用性の高い制度となっています。
このメリットを最大限に活かせるよう、当メディアでは「システム型」「PPS代行型」「コンサルティング型」の支援形態別にデマンドレスポンス支援会社を厳選してご紹介。 気になる方は、こちらで詳しく紹介していますので、自社に合った形態・事業者をぜひチェックしてみてください。
ネガワット取引を活用すると容量拠出金の削減が期待できますが、需要家に参加を促すには一定の準備が必要です。 対象設備の特定、削減可能な電力量の試算、デマンドレスポンス発動時の制御方法の設計などが必要なうえ、削減実績の報告には、スマートメーターやEMSなどのデータ取得環境が求められる場合もあります。
そのため報酬面のメリットにとらわれず、導入に伴うハードルや運用負荷も踏まえたうえ、電力会社として現実的かつ継続可能な体制を構築することが重要です。
デマンドレスポンスの指令発動時に需要家が確実に節電対応できなければ、報酬は支払われません。
たとえ需要家側に設備があったとしても業務都合や人員体制によっては実行が困難なケースもあります。
電力会社として制度を収益源として活用するには、需要家の実行力や運用体制を事前に見極めた上で、無理のない制御計画を設計しなければなりません。
ネガワット取引は、まず需要家がデマンドレスポンス支援事業者やアグリゲーター、アグリゲーターを兼務している小売電気事業者などと事前契約を結び、ネガワットの実施体制を整備するところから始まります。
その後、需給ひっ迫時に電力会社などからデマンドレスポンス支援事業者やアグリゲーターへデマンドレスポンス要請が発信され、その要請を受けた事業者が、需要家にデマンドレスポンスへの参加依頼を行います。
需要家側は、対象設備の運転抑制や運用調整など可能な範囲で対応し、事業者がその実績を取りまとめて電力会社などへ報告。削減量が計測され、基準との差分が認められた場合に、需要家へ報酬が支払われます。蓄電池などの設備があると有利ですが、必ずしも専用設備が必要なわけではなく、空調や照明の手動調整など、小規模な対応でも参加可能です。
ネガワット取引は、需要家による節電を価値として活用できる仕組みであり、小売電気事業者にとっては容量拠出金の削減と顧客満足度の向上を同時に実現できる手段です。一方で、制度や運用は複雑であり、アグリゲーターとの連携やシステム対応が不可欠となります。
こうした運用には多くの工数が伴いますが、デマンドレスポンスサービスを活用することで、運用コストの削減と業務効率化を図ることが可能です。
当メディアでは、DRを実務化する際に役立つ支援会社を「システム型」「PPS代行型」「コンサルティング型」といった形態ごとに整理しています。自社の状況に応じて比較できるよう紹介していますので、参考にしてください。
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